七姫物語 * 姫×医師見習

5

……難産でね。陛下はもしもの時は王妃を優先するようにと」

の上には既に健康な兄と姉がいた。王妃を亡くす危険を犯してまで産ませなければならない存在ではなかったのだ。が自虐的に言ったように、政略結婚の必要もない今の世にあって利用価値のない王家の人間などただの穀潰しなのである。これが城下町の平民ならとんでもない話だが、王家は別だ。

大先生はしかし医に携わるものとしてを諦めたくなかった。結局母子ともに無事で済んだのは出産の時だけ召し上げられる城下の手練の産婆5人の手腕であったという。なんだよそれかっこいいな。誕生秘話に聞き入っていた花形は、以前よりこの大先生を尊敬の念を持って見つめていることに気がついた。そういう気持ちもなかったんだな、オレ――

「それでも少し月足らずで生まれてしまったせいか、姫は体が弱くてね。満場一致で10歳までもたないんじゃないかという結論になった。だけどそれは姫が生きることを諦める理由にはならない。私たちは以来、姫を健やかに育てるために日々を費やしてきた。友達がいないのも当たり前なんだ。城から出せなかったんだから」

が付き添いなしでひとりで眠れるようになったのは13歳を過ぎた頃だったという。それまでは明け方になると咳き込んだり息がしづらくなったり、片時も目を離せなかったのだという。侍女のお姉さんたちが花形に怖い顔をするのはこういう過去があったからだ。彼女たちは自分の娘盛りの頃をのために全て捧げてきた。

「あの山は……私が40年かけて育てたものだ」
「40年……?」
「昔、激しい内紛があってね。その時、この診療所には王家の人間に使うだけの量の薬しかなかった」

いつまたこんな騒乱が勃発するかわからないと思った大先生は言葉巧みに先代の国王を説き伏せ、裏山を国有林として立入禁止にし、必要な薬草が不足しないように山を育ててきたのだという。やっと安定して欲しいものが手に入るようになったのはほんの15年前ほどだと大先生は言う。

それと前後してを連れて山に入るようになり、文字もろくに読めない頃から薬草に慣れ親しませた。

「煎じ薬の達人の梅千代さんは生えてる薬草はさっぱりだったし、私は何しろこんな年だからね」
「姫が自分で薬湯を作れるように……ですか」
「そう思っていたんだ。君が現れるまではね」

大先生はにっこり微笑む。するとドアが開いて侍女が砂糖と塩を溶かしたお湯を持ってきた。

「透くん、飲ませておあげ」
「えっ!? わ、わかりました」

大先生は侍女に目配せをして部屋から出すと、の体を少しだけ起こし、顎を押さえて口を開かせる。

「ほんの少しずつ、スプーンの先端位の量を……そうそう、ゆっくりね」

喉を通るまでもないような量で、口内を湿した程度。だが、大先生は辛抱強く続けていく。そうやってふたりが舐める程度の湯をに飲ませ続けること20分ばかり、の呼吸がふいに大きくなり、呼吸に合わせて胸がしっかりと上下し出した。そして大先生が声をかけると、は薄っすらと目を開いてまばたきをした。

「姫、もう大丈夫ですよ」
「大先生……?」
「まだ痛いですか」
「痛い……ううん、痛くない」
「お薬、飲めますか?」
「うん」

大先生の問いかけに応じて首を捻ったは、花形がいることに気付くと、慌てて起き上がろうとした。

「ちょ、だめですよ急に起き上がったら」
「あの、透、ごめんなさい、私」
「まだそんなこと言ってるんですか」

上半身だけ起こして枕に寄りかかったは手を伸ばして花形の手をぎゅっと掴んだ。まだ少し冷たい。

「大先生、透は悪くないの。私が勝手に――
「そんなこたわかってますよ。ほら、これを全部飲んでください」

大先生に軽くあしらわれたはしょんぼりしつつ、ボウルをふたつ持たされた。ひとつは大先生と花形による特製薬湯、もうひとつはさきほどの砂糖と塩を溶いたお湯だ。の意識が戻ったので、果物を少し搾ってある。は慣れた様子でごくごくと薬湯を飲み干す。

「傷の方はしばらく痛むでしょうけど、予後は良いと思いますよ。お腹にお肉がたっぷりあってよかったですね」
「大先生ひどい……
「傷がすっかりよくなるまでは大人しくしてるんですよ」
「わかってますそんなこと」
「透くんの言うことちゃんと聞くんですよ。いいですね」
「え、は、はい」

突然花形のことを持ちだされたのできょとんとしているを置いて、大先生は部屋を出て行く。花形もそれを追おうとすると、大先生はここにいなさいという。

「私の見立てではもう何もないと思うけど、急変したら困るので透くんはここで寝ずの番です」
「大先生、透も疲れてるから下がらせてあげてよ」
「いいえ姫、これは医師としての務めです。風邪を引かれては困るから厚着をしてきなさい」
「はい、わかりました」

止めるに構わず、花形は部屋を飛び出す。それと入れ替わりに侍女たちが入ってきて花形が寝ずの番をする支度を整える。吸飲みやタオルなどを設え、の着替えを手伝う。しかし彼女たちは不服そうだ。

「大先生、何も見習い先生でなくとも私たちがいれば……
「あなたたちはもちろん控えの部屋にいらっしゃい。だけど姫が急変した時にその場で対応できるのかな?」

侍女のお姉さんたちはの担当である誇りがあるので、花形を「見習い先生」としか呼ばない。しかし大先生の言うようにもしが急変したとして、大先生を叩き起こしに走ることは出来ても、その往復の間には何も出来ない。大先生の言うとおりなので侍女のお姉さんたちは黙った。

「私の手が必要ならあなたたちが呼びに来る、その間姫の対処をするのは医者の役目。いいね」

程なくして急いで厚着をしてきた花形が戻ってくると、大先生たちはいくつか指示をして部屋を出て行った。

「透、透」
「どうした」
「そっちのクローゼットに夏物だけど寝具があるから、それ使ってソファで寝て」
……寝ずの番だって言ってるだろ」

バレないからやっちゃえという顔をしていたの傍らに腰を下ろした花形はふうとため息を付いて腕を組む。というか何も花形は遠慮をしているわけじゃない。

「大先生のようには出来ないけど、一応医師だからな。役目くらい果たさせてくれ」
「だけど」
「いいからさっさと寝ろ。寝ないと治らないぞ」

グズるの頭を掴んでベッドに沈めると布団をかけ直し、明かりを絞って暗くする。

「でも眠くなったら無理をしな――
「しつこい。あんまりグダグダ言うと友達になってやらんぞ」

暗くて顔は見えないだろうが、仏頂面でそんなことを花形が言うので、はくすりと笑って目を閉じた。

それから数時間、明け方のことである。薄っすらと空が明るくなり、部屋の中が青灰色に染まる頃、ふいには咳き込んで目を覚ました。それほどひどい発作ではないが、何しろ脇腹を縫ったばかり。咳をする度に響く。

「咳すると痛い……!」
「そりゃそうだ。待ってろもう少しだから」

花形は大先生の指示で揃えておいた薬草をタライに入れ、暖炉にかけておいた薬缶からお湯を注ぐ。立ち上る湯気を吸い込むことで咳を鎮める効果があると言われている。湯気が分散しないようの頭にタオルを掛けて垂れ下げ、膝にタライをおいてゆっくり深呼吸をする。

「発作が出たの久し振り」
「収まってたのか」
……最近は午前中に具合が悪いことが多くて」

そういえば、が診療所にやってきてだらだらとお喋りをしていくのはいつも午後だった。というかつまり、昨日は朝食も取らずに普段あまり調子が良くない午前中から山に入ってしまったということか。それはそれでが軽率だったことになろう。花形は少し呆れたが、怒る気にはならなかった。無事ならそれでいい。

湯が冷めて湯気が昇らなくなるとの発作も落ち着いた。タライとタオルを下げた花形は少し早いけれど朝用の薬湯も飲ませた。目覚めると痛みがぶり返すかもしれないし、薬湯には気持ちを鎮める効果もあるから、また眠れるかもしれない。

「透、全然寝てないの」
「別に徹夜くらい大したことじゃない」
「もう発作収まったし薬も飲んだし、寝てもいいんじゃない?」

自分のせいで迷惑をかけたと思っているはしきりと休むように勧めるが、花形は緩く首を振る。

「いいよ別に」
「医者の不養生になっちゃうよ。体に障るから――

「ちゃんと寝――はい?」

またベッドに腰を下ろした花形はの手を取ってふんわりと包み込む。

「体に障ったっていいんだよ。どうせあと数日の命かもしれないんだし」
…………え? どういうこと?」
「一介の医師見習いが王女を怪我させたんだ。ただで済むはずがない」

が眠りについてホッとしたところでそのことを思い出した花形は、眠ってしまうのがもったいなくなってしまった。国王や王妃はここに顔を出さなかったけれど、大先生や女官長から話が行っているはずだ。朝になれば処遇も決定していることだろう。良くて投獄、どう考えても処刑、そんなところじゃないかと花形は予測していた。

「そんな……大した怪我じゃないよこんなの」
「傷の程度が軽ければいいってもんじゃない。傷つけたことが問題なんだ」
「だからそれも私が悪いんであっ――くしゅん、いたたたた!」

明け方の冷気に冷えたか、花形はブランケットを持ってきてに着せかける。昨日は体の芯まで冷えていたし、傷があるので湯の中には入れられなかった。風邪になってしまうかな――と花形は考えながらまたの隣に腰を下ろした。

「寒気とか関節の痛み、あるか?」
「うーん、ちょっと寒いけど関節は別に。風邪って感じはしないけど」
「熱はないだろうな」

部屋が薄暗いので顔色はわからない。は青白い顔をしている。その額に手を滑らせたが、冷えている。とはいえ、額は体温を測るのに最適とは言えない。花形はそのまま両手を首に滑らせる。耳の下から顎にかけてに指を押し当てて熱を見る。ほどよく温まっているだけだ。ホッとした花形はしかし、の目を見て手を止めた。

が怪我をした岩場でのことを思い出したからだ。確かあの時、キスをしようとしていた――

「熱、ある?」
「いや、大丈夫そうだ」
「熱の見方が大先生とおんなじ」
「そりゃそうだ」
……小さいころ明け方に発作を起こすと大先生もこうして熱を測ったり、目を見たりしてた」

熱はないか、首に腫れはないか、目に異常はないか、喉は腫れていないか、舌の色は、脈は――医師が王族の診察をする時の基本的な決まり事だ。どんな症状があってもこれを必ず確認する。花形もそれに倣い、目を見て口を開けさせ、袖をめくって脈を見る。の仄白い腕が薄暗い部屋の中でぼうっと浮かび上がる。

……私は父にもおんぶしてもらった記憶がなくて」
「お兄さんには?」
「それもあまり。だから今日はちょっと嬉しかった」

脈は問題ない。しかし花形はの手を握ったまま、その滑らかな腕を見つめていた。

「透は、その、恋人とかいるんですか」
「城下に出るにも許可がいるのに、そんな相手作れないでしょう」
「学院にいた頃もですか?」
……なぜそんなことが気になるんですか」

の手のひらがきゅっと閉じられる。そんなことが気になるのはキス未遂があったからに決まっているが、それを正直に言える立場にはない。穀潰しだからこそ滅私であるべきとされているのが王女だ。

「友達がいないくらいだから、もちろん人を好きになったこともないので……
……いずれ立派な方のところへ嫁がれるんでしょう」
……それは、ないと思う」
「は?」

政略結婚の必要はなくても繰り返すが穀潰しである。城に置いておく理由はないはずだ。つい顔を上げた花形の目線の先では寂しそうな顔で微笑んでいる。

「体が弱いから……大先生は出産には耐えられないだろうと言うし」
「別にどうしても産まなくたって……子供なんか国中にたくさんいるじゃないですか」
「城下町の人ならともかく、私たちはそういうわけには」
「子供を産むための道具じゃあるまいに」
「見習いでも医者ですね。大先生と同じこと言ってる」
「そりゃまあ、オレは別に子供が産めなくたって気にしな――

言いかけて花形はウッと口をつぐんだ。これでも医師見習いなのでそういう主義だから、とでも言って流せばよかったのに、言葉を切ってしまったので余計に気まずい。は重なっていた手をひっくり返し、緩く握り締めると俯いたままか細い声で呟いた。

「私の体に、異常は、あった?」
……いや、何も」

熱もないし、脈も正常、脇腹に穴は空いているが、はちょっと弱いだけで異常ではない。花形は繋いでいた手を解くとの腕に滑らせて、少しだけ距離を縮めた。明け方の青に肌を染めていたに影がさす。

「おかしなところは何も。……きれいな、お体です」
……ありがとう」
「姫、お許し下さい」
「えっ、何が――

花形が何を言っているのかわからなくて顔を上げたは、直後に唇を塞がれて息を呑んだ。傷のある箇所を避けて花形の腕が絡みつき、薄い夜着姿のの体をゆったりと抱き締める。

「どうせ首を切られるなら悔いは残したくない」
「首って、まさかそんなこと」
……恋人はいないけど、好きな人ならいます。今、目の前に」

言葉に詰まる、花形はまたゆっくりと唇を押し付けた。

夜が明け、大先生が侍女を引き連れて部屋にやってくるとは静かにベッドに横たわり、花形はその傍らで椅子に腰掛けていた。ふたりとも妙に真顔で言葉も少なかったが、は痛みや疲労で、花形は寝不足と思われたようで、誰も何も言わなかった。

「えっ、発作出たの。久しぶりですね」
「疲れたから?」
「まあ元々明け方は出やすいですからな」

そんな風に大先生がから話を聞いている時のことだ。女官長が慌ただしく部屋に入ってくると侍女を部屋の隅に下げさせ、大先生に早口で国王と王子が来ると伝えた。つまりの父上と兄上。花形も面食らい、慌てて壁際まで下がる。おそらくを見舞う目的だろうが、場合によってはその場で連行されるかもしれない。

それでも今のところ後悔はなかった。に何度もキスをしてずっと抱き締めていた。その時の満たされた気持ちはまだ心の中にある。もし処刑されることになっても、最後の瞬間まではそれを思い出していようと決めた。

ドタバタと国王と王子が部屋に入ってくると、花形と侍女のお姉さんたちは膝をついて頭を下げる。大先生と女官長は頭を下げて一歩下がる。花形の目の前をふたりが通過していく。さて、の無事を確かめたら、次はオレだな――そんなことを考えていた。だが、花形は信じられないことを耳にして思わず頭を上げそうになった。

「またやったのかこのバカ娘が!」
「ごめんなさい~」
「何度やったら気が済むんだ。もう少し自分の体調を自覚しろと言ってるだろう!」
「今回は小枝が腹に刺さっとりました」
「もういっそ頭から薬草でも生やしていなさい!」

一体どうなってんだ……花形は下を向いたまま大混乱、目眩がしてきた。が、読み通り話の矛先は花形に向く。

「大先生、これがその見習いか?」
「はい、今年学院を主席で出た花形と言います」

が頭から薬草なら自分は串刺しだろうか……と頓珍漢なことを考えていた花形は目の前にふたりが立つので、さらに頭を下げた。すると、おそらく王子の方の声が顔を上げろという。短く返事をした花形は顔を上げた瞬間腰を抜かしそうになって壁にへばりついた。目の前にふたりがしゃがんで困り切った顔をしていたからだ。

「このお転婆が迷惑をかけて済まなかった」
「生まれつき丈夫ではないので強く育てようとした結果がこれだ」
「確か薬草の採取の途中だったのだろう。邪魔をしてしまったね」
「どうか辞めないでくれないか。城で働きたいという人材は滅多にいないんだよ」

ふたりに畳み掛けられた花形はしかし、どうやら処刑も串刺しもないようなので力が抜けてがっくりと手をついた。そして床に手をつき、また頭を下げる。命拾いをしたことよりも、なんだかこの国の主があんまり「感じの良い」人なので嬉しくなってしまった。というかは常習犯だったのか。心底心配して損したが、それでもまだ好きらしいのでそれは措いておく。

「王女殿下に傷を負わせてしまって申し訳ありません」
「いやもう既にあちこち傷だらけなのでな……
「お許し頂けるのでしたら、これからもここで働かせて頂きたいと存じ――
「だからそうして欲しいと言っておろう」
「というかその、出来れば今後も姫の面ど……相手をしてやってくれないか?」

どうにも父と兄は腰が低い。というか何とかして花形を引き止めてを押し付けたい感が丸出しだ。花形は意を決して顔を上げ直し、しっかりと頷く。これが自分の運命だったのだろう。そういう道を歩むようになっていたのだ。それを後悔などすまい。自分の決断に間違いはなかったと思えるような日々を過ごしていこう。この城で。

「一生をかけてお仕えさせて頂きたく存じます」

ゴハッとむせたのは女官長、口元を覆って笑いを堪えているのは大先生、そして父と兄は目を丸くしつつもニヤリと口元を歪めた。いいカモが現れた! という顔をしているが、当人は気付いていないらしい。

「そうか、それは願ったりだ。こんな跳ねっ返りでは嫁にも出せんからな」
「医師の君がそばにいてくれれば我々も心配がない。面倒をかけるがよろしく頼む」

上機嫌の父と兄は花形の肩をバンバン叩くとヘラヘラと笑いながら部屋を出て行った。

「透くん、言っちゃったね」
「え、まずかったですか」
「いや別にいいけどさ、これどうすんの」

こちらも笑うのを我慢して顔が歪んでいる大先生はくいっと親指を背後に向ける。大先生の後ろではベッドに横たわっていたはずのが布団にくるまって巨大な真ん丸のきのこみたいになっていた。どうすんのって何が?

「だって君、姫と一生一緒にいたいですって言うんだもん」
「はあ? ………………いや、ちょ、ちが、そういうことじゃ、大せんせ、あああ!!!」

今更自分の言ったことの意味に気付いた花形はまた壁にへばりついて慌てた。だがもう女官長も侍女のお姉さんたちも声を上げて笑っている。大先生もにこにこと楽しそうだ。

「いやー、これで私も安心」
「大先生、誤解なさらないで下さい」
「どう誤解してるっていうの」
「ですからさっきのは身命を賭して王家にお仕えするという」
「おんなじことじゃん。よしよし、女官長、あとはこの騎士道見習いに任せましょうや」
「大先生!!!」

そうして大先生たちが出て行ってしまうと、後には巨大なきのこと騎士道見習いだけが残された。

「あ、あの、……?」

しばしピクリとも動かなかったきのこだが、やがてがばりと起き上がると布団から顔を出し、縦長のきのこみたいになった。

「ええとその、首、切られなかった」
「どっちが、本当なの?」
「えっ、何が!?」
「さっき言ったこと、本当なの、誤解なの」

ちょっと前まで真っ青な顔をしていたは今度は真っ赤だ。下がり眉に目は涙目、唇は少し震えているようにも見える。こちらも赤い顔をしてわなわなと震えていた花形だったが、頭を振ってまた覚悟を決める。そういう運命だったのだ、そういう巡り合わせだったのだ。ベッドに駆け寄った花形はを優しく抱き締める。

「本当。誤解じゃない」
「それでいいの?」
「それはお互い様だろ、お前だって選ぶチャンスなんかなくて、オレしか――

ぶつぶつ言っている花形は唇を塞がれてぴたりと止まる。

「それじゃあ訂正します。透、友達じゃなくて、私の恋人になって下さい。お願いします」
……かしこまりました、王女様」

後悔などすまい、そう思えるようにここで生きていこう。と一緒に。花形はまたを抱き締めて目を閉じた。

めでたしめでたし、おしまい